encouragement

2020年も早残り1か月となりました。奇妙な一年があっという間に過ぎ去ろうとしています。コロナがもたらした社会現象は、人々の生活習慣を変え、経済活動を萎縮させ、そして文化活動も教育活動も完全に一旦立ち止まざるを得ない状況に追い込みました。11月後半、3つのコンサートに伺いました。ひとつは、京都市立芸術大学の管打専攻生による【灯〜未来へつなぐ音楽のちから〜】、もうひとつは、京芸の卒業生によるユニットpanna cottaさんによる【Autumn Concert C 公演】、そして、石上真由子さんによるヴァイオリンリサイタル【凛】


京都市立芸術大学では、前期はごく限られた数回の個人レッスンが対面で行われたのみで、全ての授業がオンラインでの開講、私が担当させていただいている管打合奏のクラスも、実技ではなく、レポート提出の形で執り行われました。後期になり、ようやく一定の条件を設け、対面での合奏形態の授業を行う形となり、毎年11月に行われるアンサンブルのコンサートを開催するため、練習に取り組んできました。アンサンブルはいつもより少し編成を小さくしながら、また毎年6月に行なっているブラスの演奏会を開催できませんでしたので、本来の形には程遠いですが、短いブラス作品もプログラミングされました。

自由にリハーサルも行えない状況において、限られた回数で仕上げてきた全作品。ゲネプロの時まで、先生からのアドバイスが飛び、最後の最後まで、より良い演奏のために調整しました。

そして、本番。京芸としては今年度初めてのお客様を迎えての公演。事前申し込み制にも関わらず、沢山ご来場いただき、市松模様に座られたお客様を見て、学生たちは何を思ったでしょう。尋ねてはいないけれど、本番の演奏を聴いていれば感じます。演奏する喜びを、聴いていただく喜びを、感じていたに違いない。特に最後のブラスの演奏は、ゲネプロよりも格段に良くなっていて、みんなが音楽を伝えよう、届けようとしているのが、ひしひしと伝わってくるものでした。この日演奏した『陽はまた昇る』は、東日本大震災の後、その復興支援のためにフィリップ・スパークがいち早く手がけた作品であり、その背景も含め、その思いはお客様にも伝わり、とてもとても温かい拍手をいただいたのです。早く、またみんなと一緒に演奏したいなぁ。

ゲネプロの様子。ブラスを立奏で行いました。

panna cottaは、京芸を卒業した同級生3人、鎌田邦裕さん(fl)・山永桂子さん(cl)・佐藤亜友美さん(pf)によるトリオのグループです。私が初めて京芸にお世話になった年に彼らは4回生、鎌田さんと山永さんとは一緒に勉強させていただきました。そのご縁から、彼らの秋のコンサートに向け、本番前に何度かアドバイスさせていただく機会をいただきました。

学生のみならず、卒業して間もない演奏家がこの時代を生きてゆくのは本当に大変なことです。学生のように教育機関が何かを用意してくれるということはなく、すべて自分たちで開拓してゆかなければならない、ましてや、今年のような状況下ではなおさら厳しいことでしょう。その中でも彼らは、「新型コロナウィルス感染症の影響に伴う京都市文化芸術活動緊急奨励金」に応募し、その採択事業の一つとして【Autumn Concert】を開催しました。親子向けのコンサート2公演、大人向けコンサート1公演を1日でやってしまうという太っ腹な企画です。

私が伺った大人向けコンサートでは、ドビュッシーの『牧神の午後による前奏曲』や、メンデルスゾーンの『ピアノ三重奏曲第1番 第1楽章』のアレンジものにも挑戦し、オリジナルレパートリーの少ないこの編成の可能性を開拓しようとしていました。それに加え、とても素敵な試みだと思ったのは、彼らが学生時代楽曲分析でお世話になった増田真結先生に新曲を委嘱したこと。pannna cottaのテーマソング『theme for panna cotta』がこの日世界初演されました。そこには彼らが、このトリオを大切に思っていること、長くこのチームでの活動を続けてゆこうという意志の表れだと感じました。この作品は、今後panna cotta のアイコン的役割を果たしてくれることだろうと思います。

そんな彼らのサウンドは、3人のバランスが絶妙で、互いを思いやる温かな響きを持っています。作品の解釈も、私が聴かせていただいた時よりもさらにグレードアップしていて、それぞれの作曲家のキャラクターを表現しきっていました。MCも初々しく、でもしっかりと内容を伝え、とても好感が持てましたし、これは沢山ファンが増えそうです。これからも、しっかりと自分たちらしい活動を展開していってもらいたいです。

本番からこの笑顔でした!

大学という教育機関にお世話になって、10年が経とうとしています。勤め始めて何年目かの時に、私の師チャールズ・ナイディックに、こんな学生もいれば、あんな学生もいて、こんな風に考えている子にはこう言ってあげると上手く言ったけれど、別の子は全く違っていて…と話していると、彼がそっと言いました。“Encourage them, that’s your job” ー励まして、元気付けて、背中を押してあげる、それが先生の役目だよ、と。私が先生からいただいた沢山の言葉のうちでも、とても大事にしている言葉のひとつです。

学生にしても、卒業生にしても、私は全身全霊でencourageします。けれど、本当は、私が彼らをencourage しているだけではなく、頑張っている彼らが私をencourageしている、その姿を見たお客様をencourageしている、そして演奏を聴いてくださったお客様の温かい拍手が、ステージ上の皆をencourageしている…そんな果てしないループが作用して、みんな前を向いて進もうとするのだなと、このコロナ禍において、余計に強く感ずるところです。


石上真由子さんとは、彼女が府立医大入学前頃に初めてご一緒したのかなぁ。以来、時折ご一緒させていただき、今では私が半ば強引に(?)アンサンブル九条山に引き入れたので、現代もののレパートリーでもご一緒しています。彼女の技術の高さはもちろんのこと、芸術性・カリスマ性・音楽への深い愛情など、いつもご一緒させていただくたびに尊敬の念を持って聴かせていただいているのですが、実は、じっくりと観客として彼女のパフォーマンスに触れたことがなく、いつか、と思っていたのが、ようやく叶いました。

この日のプログラムはベートーヴェンの10番のソナタ、ブロッホのソナタ1番、エネスコのソナタ3番。ヴァイオリンのリサイタルとしては決してメジャーでないものですが、そこは石上真由子、彼女の抜群のセンスでそれぞれの作品がまとめられ、良い意味で聴衆を丸め込み、納得させてしまうのです。会場との相性が良かったベートーヴェンは最高に楽しく、彼女の心底からの遊び心を堪能しました。ブロッホとエネスコは出来ればもっと響きのあるところで聴きたかった!ところですが、これだけの彼女の生の声を聴けたのは、ある意味とても得した気分。こんなにも自分の体と精神を音楽に捧げているのかと、ぞくぞくしながら聴きました。


今週、私は久々にnext mushroom promotion としての本番を控えています。2020年はびっくりするほど現代音楽の本番がなくなりました。実は現代ものを演奏するのが久しぶりです。自粛期間中は十分基礎練習を積み、以前よりもスペックが上がったはずなので、きっと大丈夫、けど表れる一抹の不安・・・そんな私を、石上さんの音楽がencourageしてくれました。楽しんで本番に向かえそうです。皆さん、是非いらっしゃいませんか?